どんな卵を選べばいいの?

はじめに、下の動画を見てください。2021年にPETAが「ケージフリー(平飼い)」の農場を調査した映像です。

平飼いと書いてあれば鶏が幸せに飼育されているとは限らないのです。パッケージの「平飼い」の表示だけで判断して「平飼い卵」を購入することは鶏を苦しめることに繋がることもあります。

例えばシステムはバタリーケージシステムとほぼ同様で、ただケージの扉を開けただけで「平飼い」を謳っているケースが国内にもありますが(コンビネーションシステム、コンビケージ、コンバーチブルハウジングシステムなどと呼ばれます)、管理者が恣意的にいつでも扉を閉めることができるようなシステムはケージフリーとは言えません。ネスレやIKEAなど、13のグローバル企業からなる連盟 Global Coalition for Animal Welfare(GCAW)は、コンビケージを「ケージフリー」とは認めていません。

GCAW Position on Combination Systems

 

ケージフリーの鶏の場合、過密であれば粉塵やアンモニアへの暴露が高くなったり突き合いにより死亡したり、敷料の状態が悪ければ足蹠皮膚炎やバンブルフット(趾瘤症)に苦しんだりということもあります(Welfare implications of cage-free egg production)。卵を購入するときに、「平飼い」表示だけで安心せずに、自分で調べて、鶏の状態を正確に把握してから購入することはとても重要です。(最良の選択が「卵を買わない」という選択であることは忘れないでください)

1、「平飼い」「放し飼い」「有精卵」「有機JAS」を選ぶ

2、飼育密度

3、農場を実際に見る(写真・動画を見せてもらう)

4、どんな食べ物を与えられているか

5、デビークの有無

6、強制換羽の有無

7、床の状況

 

 

1、「平飼い」「放し飼い」「有精卵」「有機JAS」とパッケージに書かれているものを選ぶ。

 

これらの表記のないものは、ケージ卵だと考えてほぼ間違いないです。

  • 鶏卵の表示に関する公正競争規約及び施行規則*では次のことが求められています。
  • 卵のパッケージに「平飼い」と表示するためには、「鶏舎内または屋外で鶏が自由に地面を運動できるように飼育」することが必要です。
  • 「放し飼い卵(放牧卵)」と表示するには「平飼いのうち、日中の過半を屋外において飼育」することが必要だとされています。
  • さらに放し飼いのうち「放し飼い(特定飼育卵)」と記載されているものであれば120 日齢以降は、1m2当たり5羽以下で飼育することが求められます。ただこの表記の卵はあまりみかけません。
  • 「有精卵」と表示するためには雌100羽に対して雄5羽以上(1羽あたり2000cm2以上)で混飼し、「自然交配によって受精可能な飼育環境」である必要があります。

*鶏卵の表示に関する公正競争規約及び施行規則の順守義務があるのは「鶏卵公正取引協議会」の会員のみで、会員は全採卵養鶏業者のごく一部です。しかし平飼いや放牧、雌雄混合ではないのに「平飼い卵」「放牧卵」「有精卵」などと表示するのは景品表示法違反となります。

スーパーで見かけることはあまりありませんが「有機JAS」であれば有機畜産物の日本農林規格により次のような条件が求められています。

  • 種の特性及び群の大きさに応じて適切な止まり木等の休息場所
  • 1羽当たりの飼育面積(28日齢以降のものに限る)0.15m2(1500cm2)
  • 家畜及び家きんを野外の飼育場に自由に出入りさせること。ただし、週2回以上家畜若しくは家きんを野外の飼育場に放牧する場合又は区分された運動場所及び休息場所を有する家きん舎で家きんを飼養する場合にあっては、この限りでない。

週二回以上出入りさせればケージに閉じ込めてもいいのかと言うとそうではなく、農林水産省の「有機畜産物及び有機飼料のJAS規格のQ&A」には次のように書かれています。

 

(問4-6) 家きんをバタリーケージで飼うことは認められますか。

(答)家きんは定期的な野外の飼育場への放牧が必要です。放牧後に群から離してバタリーケージに追い込むことは、家きんの行動学的要求に配慮が足りないと判断されます。疾病やけがの回復等のために、群から離すことに正当な理由がある個体を除き、家きんをバタリーケージで飼うこと

は認められません。 

2、飼育密度

 

ケージフリーの卵なら絶対大丈夫、とは言えないことに注意してください。購入前に飼育密度の確認をするようにしましょう。

1で記載した「放し飼い(特定飼育卵)」や「有機JAS」であれば最低面積が確保できます。しかし他の記載の場合はそうではありません。

平飼いや放し飼いと聞くと「広々としたところで飼育された、健康な鶏の卵」というイメージがあります。 でも、現実は少し違います。

2014年に初めて行われた平飼卵の飼育密度調査では、41.5%が1000cm2/羽以下という結果でした。そして実に15.1%は370cm2/羽という超過密飼育だったのです。370cm2というと、19cm×19cm程度しかありません。日本では、このような狭小スペースであっても「平飼い」と表示することができてしまいます。

 

EUでは鶏を放して飼育する場合の密度は9羽/m2以下という規定*がありますが、日本ではそのような数値基準はありません。たとえば飼育密度が16羽/m2であっても「平飼い」と表示できてしまうのが、今の日本です。実際に16羽/m2、またはそれ以上の密度で飼育しているケージフリー卵があるというのが現状です。もちろん広々とした環境で飼育している農家さんもたくさんいます。

 

Council Directive 1999/74/EC of 19 July 1999 laying down minimum standards for the protection of laying hens 

 

畜産研究所などの研究論文では、平飼いの場合、飼育密度を高くすると病気の発症率、および卵質の低下などが起こる事が指摘されています。ケージフリーであっても安心せず、まずは飼育密度を確認したほうがよいでしょう。

 

3、農場を実際に見る(写真・動画を見せてもらう)

 

ケージフリーであればバタリーケージよりも動物福祉に配慮されている可能性は高いでしょう。

しかし大事なのは、その飼育方法を、自分自身で養鶏農家さんに確認する事です。実際に見学させてもらうことがベストですが、それが難しかったら動画や写真を送って頂き見せてもらえるところもあります。農家さんが動画サイトなどで農場の様子を公開している場合もあります。

鶏に「幸せかどうか?」を聞くことはできませんが、鶏冠(とさか)がきれいでピンと立っているか、羽つやがよいか、生き生きとしているか、鶏の姿を見ることで、鶏の状態を推し量ることはできます。

ケージフリーの場合は鶏たちが自由に動ける分、鶏間のつつきが発生することが多く、つつきがエスカレートして、死に至る場合もあります。つつきが発生しないよう試行錯誤されている農家さんや集中的に突かれている鶏を隔離し、保護する農家さんもありますが、特に対策をとっていない農場もあります。その場合激しいツツキで鶏が死に至ることもあります。こういったところも確認するとよいでしょう。

巣、つつける敷料(土など)、止まり木が設置されているかどうかの確認も重要です。ケージフリーであってもこれらのものが設置されていない場合もあります。

 

4、どんな食べ物を与えられているか

 

ノンGM(非遺伝子組み換え作物)・有機・ポストハーベスト(収穫後農薬:防カビ剤)フリー・抗生物質フリーといったことも動物福祉に関わってきます。

私たちも体に悪いものを食べていると、健康ではいられないし、良い精神状態を保つことが困難になります。

地面に生えている草を自分で自由に採食することができるか、それが無理なら刈り取った生草が与えられているかどうかも動物福祉をはかるものさしになります。(バタリーケージの鶏に生の草が与えられることはありません。安価な遺伝子組み換えの配合飼料の中にアルファルファなどの牧草が乾燥させて粉砕されて一緒混ぜられているだけです)

  

5、デビーク(くちばしの切断)の有無

デビーク(雛の段階で行われるクチバシの切断) 引用元:wikipedia https://en.wikipedia.org/wiki/Debeaking#/media/File:ChickBeingDebeaked.jpg
デビーク(雛の段階で行われるクチバシの切断) 引用元:wikipedia https://en.wikipedia.org/wiki/Debeaking#/media/File:ChickBeingDebeaked.jpg

 

日本の採卵養鶏の83.7%でデビーク(クチバシの切断)が実施されています。ツツキ合いを防ぐという目的で行われるものですが、デビークは鶏へ大きな苦痛を与えます。また、クチバシを切られると地面を思うようにつつくことができず、野菜を噛み切る力もなくなります。鶏にとってくちばしは手のようなもので、デビークはとても残酷な行為なのです。

鶏の習性を理解し自然に近い環境を用意することで、つつきは防ぐことは可能です。デビークをしなければならない場合であっても、つつきをしている個体だけに限定し、クチバシの先端のみを、より福祉に配慮された赤外線を使用して切断するなど、動物に配慮した方法がとられるべきです。

 

6、強制換羽の有無

把握している限りでは平飼いや放牧卵で強制換羽を行っている日本の養鶏農家さんはいません。ただすべてを確認できたわけではなく、海外ではケージフリーであっても強制換羽を行っている例もあります。ですので、強制換羽の有無を確認してみてください。

強制換羽については「バタリーケージとは」の強制換羽に関する項目をご覧ください。 

7、床の状況を確認する

 

つつき、探索し採餌することのできる土・敷料は鶏にとって必要なものです。

アメリカの全米鶏卵生産者団体(United Egg Producers)のケージフリー規定UEP Certified Cage-Free Guidelinesでは、「床の15%以上の敷料」という規定があります。

しかし日本ではそのような規制はありません。放牧卵や有機JASであれば大丈夫ですが、それ以外のケージフリー卵の場合は、床の状況を確認する必要があります。ケージフリーであっても床が全面金網のところもあるからです。

 

卵を食べるのを止める

消費量を減らすという選択も

 

どんなに鶏の生態や習性に配慮した飼育をしたとしても、最終的に鶏は産まれて1~2年ほどで屠殺されます。出荷ー輸送ー屠殺、どの過程も鶏を苦しめます。それに、どんな福祉的な卵を選んだとしても採卵鶏のオスの殺処分問題をクリアできる卵は少ないでしょう。さらに福祉的な屠殺方法について法的枠組みのない日本では、屠殺方法はスタニング(気絶処理)なしでいきなりネックカットということも珍しくありません。

 

ベストな選択は「卵を購入しない」という選択です。卵に含まれる栄養素は他の食品からの摂取が十分可能で、卵を食べるのを止めても栄養学的に問題はありません。この選択が難しかったとしても消費量を減らし、動物福祉にできるだけ配慮された卵を買うという選択をすることはできるはずです。

 

大量生産大量消費の結果が、生産効率を優先したケージ飼育であり、デビークや強制換羽、オスの殺処分といった残酷な行為につながっています。日本の採卵鶏の飼養羽数は1億8千万羽を超えています(2019年農林水産省統計)。この数の多さが鶏の扱いの乱暴さに拍車をかけています。

出荷時に鶏がどのように扱われているかを見れば、大量生産大量消費がどのような残酷な結果を招いたかがわかるでしょう。

 

 

日本では一人当たり年間337個もの卵を消費していて、世界第二位です(2018年)。このようにたくさんの卵を食べる必要はないのです。

 

カナダの研究者によると、卵黄を一週間に3個以上食べる人は2個以下の人に比べると、プラーク堆積量(プラークが堆積すると、心臓病を発症するリスクが増大する)が遥かに多いということです*1。2019年に発表された卵の消費量と心臓病の関係を調べた研究では、「卵の消費量の増加は心臓病と死亡率に直接関係している」という結論付けられています*2

鶏のためだけではなく、自分の健康のためにも、もっと食べる量を減らしたほうが健康でいられる可能性が高いかもしれません。

 

 

少量の、動物福祉に配慮した健康な鶏の卵を食べる、そういう選択をする人が増えれば、鶏たちの苦しみを確実に減らすことができます。

 

 

*1 カナダ・ウェスタン・オンタリオ大学医歯学部のDavid Spence博士等が「Atherosclerosis誌」の2012年7月31日オンライン版で発表した研究結果

*2 March 19, 2019 Associations of Dietary Cholesterol or Egg Consumption With Incident Cardiovascular Disease and Mortality